精神科受診が必要だと思われるケースだが・・・

昨日、スタッフが気になることを話していた。
「Aさんの話してる内容がおかしい」
「誰だか知らない人が私の部屋に入ってきて、口の中に異物を突っ込もうとする。首を絞められそうになるって言ってた。あの人、おかしいよ」
彼女はAさんの表情がこわいと言った。

話の内容から、妄想・幻覚症状のようにも思える。統合失調症ではないのか?
そのスタッフは続けて言った。
「あまり関わり合いたくないから、聞き流した」
それこそ、問題ではないの?
生活保護で一人暮らしのAさんは、病院に来る前必ずお風呂に入ってくると言い、紅潮した顔と石鹸のいい香りは潔癖症なる性格を思わせた。私は特別おかしな印象を受けたことはなかったし、気づかなかった。ただ、何か気になることがあればいつまでもこだわる性格の人のようだとみていた。

以前は週1回は来ていた人が、この2〜3ヶ月ほど姿が見えなかった。年明け早々、体調不良を訴えて検査した時、彼女を担当したスタッフがAさんの精神状態に気づいたのだった。

症状は早くから出ていたのではないかと思う。イソジン・ガーグル(うがい薬)の処方を来院の度に希望していた。保険請求上の制約でこれ以上は出せないというと、薬局で市販のうがい薬を買い足していたという話も後から知った。異物を詰め込まれたと感じる彼女は、頻繁にうがいをすることで身を守ろうと考えていたに違いない。

院長は知っているのだろうか?精神科への受診を勧めた方がいいかもしれないが、一人暮らしの生保患者には深刻な事情もあって対応は非常に難しい。



我が子たちがまだ小学生の頃、役員をしている母親間で噂になった人がいた。
「夏なのにセーターを着て炎天下で庭の草むしりをしている」など、ある人の奇行について陰で話していた。「Bさんとは、関わり合いたくない」と。
当時、私はBさんという人を全く知らず、どこに住んでいるのかも分からなかったので、たいして気にも留めなかった。

2〜3年後、息子がBさんの息子さんと同じクラスになり、一番の仲良しになった。彼の家に度々遊びに行くようになった。Bさんのご主人はインテリジェンスの高い仕事をされていて、息子さんも学業成績がよかった。息子は勉強を教えてもらったり、ゲームで遊んだり、時にはお昼をご馳走になったりしていた。以前、噂になったあのBさんだと知ったのは、ずっと後になってからだ。

「彼のお母さんは優しい人」息子は言った。
かつて、母親たちが噂していたような気になる行動はまったく聞かない。ご主人もいらっしゃるし、適切な医療を受けられたのだろう、と私は考えた。その後、Bさんの息子さんとは中学校まで仲良かったが、成績のいい彼は遠方の高校に行って付き合いは消滅していった。

振り返って考えてみて、Bさんが統合失調症だったかどうかはわからない。彼女の奇行が、むかし精神科実習で見かけた患者さんと共通する症状を示していた・・・とただそれだけのことである。


私の友人も統合失調症で治療した。同窓会で久方ぶりに再開した時、学生時代は痩せていた彼女が、薬の副作用で面影も薄れるくらいに太っていた。「リハビリも終わり、社会復帰する」と彼女は笑顔を見せた。病気の引き金が仕事のストレスだったと聞いたが、元気になったらまた仕事をしたい、とも言っていた。その後どうしたのか、音信は途絶えたままである。


Bさんにも、友人にも家族がいる。
Aさんに、頼れる身内の人がいるだろうか。


世間向けに「しあわせ」を演じている家族、親戚・身内との付き合いを拒み一人で生活する人々が多くなっている現代だが、どんなに友人関係が充実していようと、他人であれば、医療関係者は「個人情報を保護するため」と言って、相手にしようとしない。民生委員や行政の窓口は、(他人である)友人以上の扱いになる。自分が心を許せる順位度が必ずしも社会的に認められる関係とは判断されない。病気や終末に当たっては、血縁関係・親戚関係が物をいうのが現実でもある。


一人暮らしの人をどうやって説得して精神科受診させるか、難題でもある。

テレビで話題にされるような「近所の迷惑住民」の中には、精神科を受診して適切な治療を受けたほうがいい人もいる。病状が進めば、治るのに時間がかかるのだ。どこで、誰が気づき、どう手を打つか。

Aさんのことは、私たちが考えなければなるまい。
  1. 2008/01/29(火) 11:38:54|
  2. 医療